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作品書評2023.2.2

編集部作品書評 魚介類人猿作『生きること能わず』

現在ボヘミア掲載中
未読の方はこちらから

荒唐無稽な展開の中に秘められた命のはかなさと業

生きること能わず

魚介類人猿

ボヘミア編集部 K

「短編の読み切り漫画を上手くするには映画の脚本術や近代小説、古典をRead Nowのも大事かもしれないが芸人のコントや即興を学ぶのがいいだろう」

…ということを教えてくれたバイト先の先輩の言葉を思い出す。

魚介類人猿先生の「生きること能わず」は

全てのコマに
笑いの要素が含まれている。

ちなみに、この漫画に対しての書評ほど野暮なものはなく
この書評を必ずしもRead Now必要はない。
そんなものがなくてもこの作品は十分に素晴らしいものだからだ。
(ただし生きていく上で重要な隠喩もこの作品には含まれている)

一コマ目から全身スーツで性器の形が浮き出た可愛らしい(?)
キャラクター(以下全裸タイツ)が登場し

2コマ目では椅子に全裸で縛られた「マサハル」というキャラクターが登場する。

マサハルの頭には全裸タイツが何もないところで足を滑らせた拍子に手放した武器が突き刺さっている。
キャラクターの特徴を抑える上では最高の自己紹介だ!

タイトル「生きること能わず」

マサハルがかわいそうと思ったのも束の間
タイトルとともに

マサハルの処刑というなかなかハードなイベントが発生する。

読者を冷静にさせる隙を与えず魚介類人猿独自の笑いのフィールドにみるみる我々は引き込まれていく…

「ヤダ!マサハル殺さないで!」

「満場一致の決定事項だ」

ここでも読んでいるとあまりの酷さと

「マサハル何したんだよ!」

ということについ思いを張り巡らせてしまい
クスリと笑えてしまう。

「全て考慮に値しない」

全裸タイツが食い下がるも決定は覆らず
必死な弁護の内容も面白い。

ここで初めて全裸タイツの後ろ姿が描かれる。

お尻がぷりぷりなのも可愛いし小刻みにマサハルも揺れていて面白い。

全てのコマにさりげない茶人の心が散りばめられており
登場人物のキャラクターとしての立ち位置がこの小さなコマの一つからも瞬時に理解できる。

「一は全、全は一」

なり…

「可哀想で面白い笑い」を誘うテンポに

次はどんな不条理がマサハルに起こるんだろう…

とワクワクしていると
その期待を裏切らずにマサハルは無が広がる宇宙空間に突き落とされてしまう。

そして

このままでは終わらないのが
魚介類人猿である。

1ヶ月後、突如マサハルと思わしき下半身が宇宙船の天井を突き破り侵入する。

その一大事より下半身だけでマサハルと気づく状況も面白い。

相変わらず世の不条理に晒されていながらもタフに生きているであろう。
マサハルの便りもオチとして完璧であった。

マサハルの生き方そして
「生きること能わず」という非常に力のこもったタイトルの中で
魚介類人猿先生はショートコントの形を通し
不条理なこの世界の中で生きていく中で世の苦しみと呼ばれるものは起こるが、あるがままに生きようぜというような静かではあるが大木のように力強いエールとテーマを感じた作品であった。

マサハルという存在は異質だが親しみやすいというのもまた真理であり
ノンリアクションのキャラクターをアイディアとシチュエーション設定、掛け合いによって
ここまでのキャラクターと作品に仕上げた魚介類人猿先生の手腕はお見事の一言に尽き、次回作が待ちきれない。

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