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作品書評2023.1.27

編集部作品書評 Che作『黄泉送り』

現在ボヘミア掲載中
未読の方はこちらから

あの淋しいところに到れ。到ったら絆をなくせ。

黄泉送り

Che

ボヘミア編集部 K

黄泉送りはChe先生が過去に執筆した原稿を編集部で日本語へ翻訳・修正を行い掲載させていただいた作品だ。
元々はChe先生が台湾高雄市青年文学賞のグラフィックノベル部で金賞を獲得したという今作は
満場一致でボヘミア向きの作品であったので掲載の運びとなった。

どこかの建物内で目を覚ます主人公。

「お見送りにきたの」と話す不思議な格好をした恋人に手を引かれ物語は展開していく。

黄泉への手続きは非常に事務的でどこか肩の力が抜けてしまう印象だが

仮にあの世への手続きがドロドロとした溶岩が流れていたり鬼がたくさん歩いていたり
死者の魂が泣き叫んでいるような想像しやすい「Theあの世」という感じだったら
死んだばかりの人間は錯乱してしまうよなと思ったり、恋人が手を引いてくれるのも
どこか現実と地続きな感覚がして変で不思議な安心感がある。

一見男性の手続きの話しにも読める作品だがページを読み進めていくと
これは同時に生前親交の深かった「残った側」の人間に必要な儀式(変な格好をしているし)
を描いているようにも読めて、胸が締め付けられそうになる。

今作は事故で亡くなった男性が黄泉へと向かう話ではあるが
物語の進行自体に重苦しさはなく
途中キャラクターの軽いジョークが演出に沿って挟まれたり
恋人の探し物に対して女性が「後ろのポケットだよ」と言い当てたり、

かつて二人が付き合っていたことが
豊かに想像できるような、キャラを膨らませるさりげない掛け合いもChe先生は大切に描かれている。

そして別れのシーンではこの二人はもうお別れなんだということが絵で強く読者に訴えかけており
非常に優れた、Che先生独自のテンポとタッチがある。

「あの淋しいところに到れ 到ったら絆をなくせ」
男性を看取り、
現実の世界でその看板を見た女性のキャラクター(姫ちゃん)が
その場で立ち尽くしてしまうところで物語は終わりを迎える。

台詞として書かれていない心情までズドンと伝えるChe先生の「黄泉送り」には漫画の
面白さや可能性がたくさん詰まっていた。

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